atelier Schopのこぼれ話

ハンドメイド作家のこぼれ話

錬金術工房【フェロ】にて SS注意

 

前書き

 下からはアクセサリーを作る際に、世界観を作ってそこからデザインを想起することのある私が構築した世界観に関するショートストーリーをかいてみました。

 こういう感じのイメージ!という曖昧な状態からデザインをすることも多いですが、おおよその世界状況、例えば上流階級の流行りなど設定があって縛りがある方が考えやすい時もあるので設定を考えることがあります。買ってくださった方たちや作品を見てくださった方にこの設定を押し付ける気はありませんが、アクセサリーをきっかけとして世界観を楽しんでくださったら嬉しいです。

 

錬金術工房【フェロ】にて

 朝、日が昇る頃からそのお店は開店のベルが鳴り響く。

 表通りの中でも、街の入り口に近いあたりにその店はある。その名前は【アトリエ フェロ】。煉瓦造りで、赤い屋根はなかなか趣深くてお気に入り。見た目の割に頑丈で、実験の失敗で爆発起こしてもへっちゃら。ドアは木製で、開けると鳴る鈴がつけられている。

 錬金術アトリエの朝は早い。特に販売ブースは日の出付近には店を開ける。

 それは冒険者の朝が早いことに合わせたから。野生動物を狩った冒険者は朝イチで街へ帰還し、薬草をとりに行く者や、街間を移動する商隊の護衛をする冒険者たちも朝早くに街の入り口の馬車付近に集合する。街の入り口は開門と同時に混雑する。そこから徐々に行き来が緩やかになっていくのだ。

 錬金術師は色んなものを作る。その中には冒険者にとって便利な品々もたくさんあるから、入り口付近にお店があるのもご近所に迷惑しないようにすることや、万が一魔物や凶暴な動物が街を襲撃してもアイテム提供がスムーズにいくようにするためだと師匠は言っていた。

「チェルカ!店を開けろ」

 師匠に言われ、開店準備の最後にドアの不許可者侵入防止セキュリティ装置をオフにしてから鍵を開けて看板を出す。

「おはようございます!アトリエ フェロ、開店です!!」

 ドアの鍵を開けてカーテンをひらくと、開店前に並んでいたであろう冒険者がドアベルを鳴らしながら入ってくる。

「いらっしゃいませ!ただいま御用をお聞きしますね。」

 急いでカウンタテーブルの向こうの定位置に戻る。朝イチのラッシュは早く御用聞きしないと冒険者の稼ぎに関わるから気が抜けない。自分のせいで、早くに並んだのに稼ぎが減るなんて申しわけがないのにも程がある。なるべくスムーズに業務を遂行できるように、売れやすいモノの事前準備は絶対に忘れてはならないのだ。そういう、いわゆる看板娘の心構えを、かつての私はまず師匠に教わったのだった。

「おはよう、チェルカちゃん。今日も頼むわね。」

 一番乗りは斥候職らしいライハーさん。

「おはようございます!ライハーさん!はい、ただいま!!」

 ライハーさんは斥候職であり、戦闘でも前衛にいることが多いらしい。素早さが売りの彼女から受けた相談からできた商品が……。

「今日も傷薬でいいですか?」

「えぇ、大丈夫よ。」

 傷薬は委託販売として、薬師さんから預かっているものなのでこの工房で作られたものではない。では、何がこの工房ならではの商品なのかというと。

「ではヘアクリップをお預かりしますね。」

 そう、ヘアクリップ。前髪や横髪を留めたりするヘアクリップだった。もちろんただのヘアクリップではない。錬金術で色んな術を合成して作成したヘアクリップなのだ。それと即効性の液状傷薬の瓶ごと錬金術で合成する。これは、持ち主の魔力に反応して使用時には元の大きさの瓶に戻ってヘアクリップと分離する。髪とかベルトとかにつけておくと嵩張らず、時間かからず薬瓶を握れるというものだった。

 ライハーさんからの相談とは、前衛にいるため足を潰されたらすぐに治療できない。一度下がる為に傷薬を常備したいけれどカバンに入れてたら取り出しにくいし、腰のベルトにつけると素早さが落ちる。それがどうにかならないか?というものだった。

 薬は後衛が管理する以外の緊急用を、カバンやベルトで持つことが一般的だった。そんなところに受けた相談は驚愕したものの……確かに、と思うものだった。内服薬はタブレットになっているものもあるけれど、それこそカバンの中に入っていたり、湿気らないように特別容器に入っている。それじゃ1秒でも早く薬が必要な事態には難しいかもしれない。そう思って開発を始めた、錬金術師チェルカのオリジナル商品第一号!

 空になっていた瓶に新しい薬を注ぎ込む。このヘアクリップを発明したのは私だけど、師匠がこの街で長らくこの工房を開いているためあった商工会のみんなへの伝手を使用して協力してもらった。ライハーさんから始まって、だいぶこの街の冒険者に広まったクリップ薬瓶だけど、まだまだ自分は半人前だなっと思う。これからも誰かに喜んでもらえるようなものを作りたいな。そう、このヘアクリップを見るたびに思うのだった。

「お待たせしました!行ってらっしゃいませ、ライハーさん!お気をつけて。」

「大丈夫よー!チェルカちゃんのヘアクリップあるからヘマしても逃げちゃうわよ〜。」

 そんな軽口を言ったライハーさんがいつもと同じ料金を支払って店を出た。

 今日もアトリエ『フェロ』の1日が始まる。さぁ、まだまだお客様は途切れない。